顧客インタビュー入門
売れるサービス創出ファシリテーターの夏本健司です。
これから世界一わかりやすく「顧客インタビュー」の解説をします。初めて「顧客インタビュー」を実施する組織向けに基本と詳細をお伝えします。
あなたが今、新製品開発や新事業開発に関わっていて、売れるサービスを成就させたいとお考えならば、ぜひ一言一句、読み飛ばさずに最後までお読みください。
新製品開発・新事業開発を成功に導くための本質
新製品開発や新事業開発を成功させるには、「顧客インタビュー」は不可欠なステップです。優れたビジネスアイデアを現実のものにするためには、この考え方とタスクの実施を避けては通れません。
私は、過去50社以上の企業で100件以上の新製品開発・新事業開発を支援してきました。
成功した開発の現場では、「顧客インタビュー」がうまくできたという勝因が存在します。
逆に失敗した現場では、ノウハウがないまま我流で「なんちゃって顧客インタビュー」を進めていた、という実態がありました。
それだけ成否を分ける大きな要因になっていると断言できるのですが、単なる経験則というだけでなく、米国ではスタンフォード大学をはじめ多くの教育機関で「メソッド」としてカリキュラム化されるほどメジャーであり、国内では「リーンスタートアップ」関連の書籍にも掲載されているほどです。
「顧客インタビュー」とは、「ユーザーヒアリング」や「ユーザーテスト」と何が違うのか?
よく「顧客インタビュー」と混同されるものとして「ユーザーヒアリング」や「ユーザーテスト」があります。これらと「顧客インタビュー」は、目的や手法が異なります。
「ユーザーヒアリング」や「ユーザーテスト」は、開発の現場で発せられる用語であり、主に製品の仕様を決めたり、機能やユーザービリティのテストを実施することを指した言葉です。しかも正確な言葉の定義はあいまいで企業や業界、職種によって微妙に異なります。
一方、「顧客インタビュー」は、もっとビジネス寄りの「テスト」を示す言葉であり、スティーブ・ブランク氏の著書「The Four Steps to the Epiphany: Successful Strategies for Products that Win」「The Startup Owner’s Manual: The Step-By-Step Guide for Building a Great Company (English Edition)」や「リーンスタートアップ」関連図書によって明確に定義されています。
「顧客インタビュー」の基本
顧客インタビューは、質問者と対象者が1対1で行います。質問者のことを「インタビュアー」と言い、対象者のことを「インタビュイー」と言い、このように1対1の面談式で実施する調査方法のことを「デプス・インタビュー」または「パーソナル・インタビュー」と呼びます。
顧客インタビューは、サービスや製品の開発者が、顧客の課題を本人から直接聞き出し、サービスや製品の開発に役立てる重要なプロセスです。インタビューの目的は、ユーザーの本音や課題を深く掘り下げ、解決策を導くためのインサイトを得ることです。
インタビュアーは、インタビュイーへの質問オープンクエスチョンを中心にして、自身のコメントは極力控えるようにして、インタビュイーが自由に意見を言えるように配慮をすることが、良いインタビュー結果を得られる秘訣です。
そのためには、後述するシナリオを元に質問をしていくと、脇道に逸れずに効果的なインタビューが実現できます。
インタビュー後は、それぞれの記述を比較して、パターンや傾向を分析し、サービスや製品の開発の糸口にします。
インタビュアーとインタビュイーは、2人の間を60度から90度以内になるように椅子をセッティングし、向井合って対面にならないようにしてください。対面で話をすると、心理的に「敵」と感じるような立ち位置になり、本来得られるべき反応がインタビュイーから得られなくなる可能性が高いからです。
インタビュー会場の問題で、どうしてもうまくセッティングできない場合は、お互いが、近すぎず、遠すぎず、初対面でも違和感なく親密に話ができる程度の距離間になるよう工夫してください。
インタビューをしている時間は、インタビュー内容の記録者とタイムキーパーをつけることが理想ですが、インタビュアーの邪魔にならないように、インタビュアーとインタビュイーの視界からなるべく外れる位置に座ってください。
インタビュアーとインタビュイーが座っている位置より、机を挟んではす向かいの遠い位置に座るか、インタビュアーとインタビュイーの目線の届かない、部屋の隅や後ろなどが理想です。
「顧客インタビュー」の3つのモデル
私がこれから解説する「顧客インタビュー」は、スティーブ・ブランク氏の著書で提唱されている「顧客開発モデル」と「リーンスタートアップ」、そして米国のトップシードアクセラレーター「Yコンビネータ」のノウハウを基にしています。国内では体系的なノウハウとして日本語になっていないからです。
また、弊社でこれまでに蓄積してきた、数々の案件の貴重な成功例・失敗例も情報として入れました。
「顧客インタビュー」には、「プロブレムインタビュー」「ソリューションインタビュー」「MVPインタビュー」の3つのモデルがあります。
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プロブレムインタビュー: 新製品開発・新事業開発のまず最初に実施するインタビューです。顧客が抱えている課題が初期仮説として考えた通り本当に存在するかを確かめる行為です。ここでのポイントは、インタビュー相手がアーリーバンジェリスト(Earlyvangelists)であるか否かの特定と、「絶対に必要」な顧客の課題を発見することです。
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ソリューションインタビュー: プロブレムインタビューの次に実施するインタビューです。つまり、顧客の課題が実在することを確認したのちにその解決策として、期仮説として考えた製品のコンセプトが正しいかどうかを確かめる行為です。一般的に「ユーザーヒアリング」と呼ばれるものは、この段階に当たります。
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MVPインタビュー: ソリューションインタビューの次に実施するインタビューです。ソリューションインタビューで解決策の有効性を確かめた後、製品の機能や性能を検証します。一般的に「ユーザーテスト」と呼ばれるものは、この段階に当たります。
なぜ「顧客インタビュー」が重要なのか?
新製品開発・新事業開発の工程において、顧客にヒアリングすることは、非常に重要だということは同意いただけると思いますが、多くの企業がその方法を誤っています。
それは、上記の3つのインタビューをまとめてぐちゃぐちゃに行ってしまうために、検証すべき順序で検証すべき内容が検証できていないのです。
間違った方法で「顧客インタビュー」を行うと、何が起こるのか?
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ほぼ確実に、【売れない製品】が生まれてしまうか【ビジネスとして成立しない】ということになる: 多くの開発の現場では、「プロブレムインタビュー」をすっ飛ばして「ソリューションインタビュー」と「MVPインタビュー」をごちゃまぜに実施してしまうので、顧客の課題を解決できない、役に立たない製品になってしまいがちです。その結果、期待した市場創造ができずに、多額の費用をかけたにもかかわらず開発が数年でとん挫してしまう可能性が高いです。
「顧客インタビュー」の正しい方法を学ぶことで、御社の新しいソリューションは
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・失敗を減らし、成功確率を高める
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・顧客の課題解決ができる真に価値ある製品・サービスを生み出す
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・より効率的かつ生産的に新製品開発・新事業開発を進める
ことができるようになります。
この機会にぜひ、「プロブレムインタビュー」「ソリューションインタビュー」「MVPインタビュー」の3つの「顧客インタビュー」のモデルを理解して、「失敗しない新製品開発・新事業開発」を実現させてください。
プロブレムインタビュー
プロブレムインタビューを実施するためには、まず、顧客属性と「顧客の課題」をしっかり言語化し、初期仮説として特定しておく必要があります。何故ならば、新製品開発・新事業開発の最も重要で最初に検証すべき要素が「顧客の課題」だからです。
「顧客の課題」については、明確な定義がありますので、以下に示します。
「顧客課題」の定義
現状の悪い状態が課題ではない。
現状起きていることと顧客のありたい姿(目指している状態)とのギャップを埋めるさまざまな要素があるが、そのハードルや要因、取り組みなど分解した1つ1つの構成要素を「課題」として言語化する。
因果関係で一番影響力が大きいものを解決すべき課題として捉えることが重要。
課題は見つけるものであって、探すものではない。想像したり考えるもではない。事象として確認するもの。
ちゃんと顕在化した課題を抱えている顧客がいるかどうかを見つけること、そこからサービスアイデアやビジネスアイデアを構築していくことが重要。
([出所] 【DeNA公式】事業家のDNA,「ユーザーが抱える課題が見つかる5つのフレームワーク」youtube)
「現状の悪い状態が課題」と間違えやすいので、そうではないと、しっかりアタマに叩き込んでおく必要があります。
誰の目から見てもわかりやすい「型」として、リーンキャンバスの「顧客セグメント」と「顧客の課題」部分を埋めることを想定して(他の項目も意識しつつ)言語化するとより良いでしょう。
リーンキャンバスを言語化の「型」として使うと、もしもインタビュー結果が初期仮説と異なっていたら、簡単に書き換えができます。仮説の書き換えとは、すなわちビジネスモデルの変更を指します。
リーンキャンバスの「課題」と「顧客セグメント」の設定(初期仮説)
以降、「cloudflare」というサービスを例にして話を進めます。
プロブレムインタビューの全体
歓迎
顧客情報の収集(顧客セグメントの検証)
ストーリーの伝達(課題の文脈の設定)
課題の優先順位(課題の検証)
課題の世界感の探求(課題の検証)
ここがインタビューの中心になります。ここでは「台本がない」ことが最高の台本 になります。
課題を順番に見ていきましょう。インタビュー相手には現在の対処法を思う存分に語ってもらいます。その間は、話を妨げず、黙って聞きます。
そして、話が途切れたら、語ってもらった内容をさらに深堀するように質問をします。ただし、答えを誘導しようとしたり「こんなお悩みはありませんか?」「こんなふうにしていませんか?」などと「Yes」を促すような発言になることで、質問が同調圧力にならないように気を配りましょう。
言葉だけでなくボディランゲージや声の調子にも注目して、課題の優先順位(「絶対に必要」「あればうれしい」「必要ない」)をなどの発言と感情を感じ取るようにします。
インタビュー相手が途中で別の課題のことを話し始めたら、それについても詳しく話を聞くようにします。
課題にまつわる、インタビュー相手(顧客セグメント)の現在の作業流れが理解できるように努めます。
ここでは、課題の理解と優先順位が重要になります。ただし、課題の優先順位をつけるときに、相手が意図せずウソをつくことがあります。丁寧に答えようとしていたり、本当のことを知らなったり、気づかれたくなかったりするためです。念のため、ここで確認しましょう。「絶対に必要」な課題なのに、積極的に解決しようとしていなければ、それは矛盾しています。
まとめ(フックとお願い)
課題に関連した質問は終わりましたが、やり残したことが1つと、こちらからのお願いが2つ残っています。
プロブレムインタビューでは、ソリューションについて詳しく説明することができなくても、やがて実施するソリューションインタビューのため、引き続き興味を抱いてもらえるようなフックを提供しておかなくてはいけません。フックには、ハイコンセプト・ピッチが最適です。ソリューションを抽象的に説明できますし、記憶に残る響きを持っているので、インタビュー相手が他のステークホルダーにソリューション関するメッセージとして広めてくれるかもしれません。
これが終わったら、今後の協力(ソリューションインタビュー)をお願いします。あなたの目標は、インタビュー相手(見込み客)との継続的なフィードバックループを構築することです。最後に、他のインタビュー相手を紹介してもらえるかどうかについても聞いておきましょう。
結果の文書化
インタビュー終了後、記憶が新しいうちに5分間かけて結果を文書化しておきます。このようなテンプレートを作っておけば、数人のインタビューを同じ形式でデータ化することでき、のちのち重宝します。
([出所]アッシュ・マウリャ著,「RUNNING LEAN実践リーンスタートアップ」オライリー・ジャパン刊)※以上は、暫定的な措置として転記をしています。追ってオリジナルの資料に差し替えます。
「課題の検証」についての備考
以上がプロブレムインタビューの全体像と詳細(例文)です。この例を参考に、プロブレムインタビューの設計(シナリオとして言語化する)をして、できれば数回、リハーサルを実施してインタビューに慣れておくことをおすすめます。
リハーサルで間違えた部分や補正した方が良い部分をあらかじめ特定して、シナリオをブラッシュアップしておくと、インタビューのクオリティが格段に向上します。
シナリオを作る際、以下の動画も参考にしてください。顧客インタビューの本質、プロブレムインタビューの勘所について、非常に分かりやすく解説されています。
初期の顧客インタビューで、誰もが使える5 つの良い質問
1.あなたが解決しようとしていることに関する一番の難題は何ですか?
2.その問題に最後に直面した時のことを教えてください
2.それが困難だった理由は何ですか?
4.その問題を解決しようと思ってしたことがあれば教えてください
5.これまで試したソリューションの中で気に入らなかった点は何ですか?
([出所] 東京大学FoundX,「ユーザーインタビューの基本」youtube )
「顧客」について
プロブレムインタビューによって「顧客」の特定、「顧客」か否かを検証することは重要です。当然ですが、将来、お客様になっていただく候補であり、「見込み客」でもある存在のことです。では、開発初期段階で「顧客」とは、どのような人のことを指すか。リーンスタートアップや「顧客開発モデル」では明確な定義があります。
・「顧客」=アーリーバンジェリスト(Earlyvangelists)です。
【注意】「evangelists(エバンジェリスト=伝道者)」ではなく「vangelists(バンジェリスト=伝道者)」
「アーリーバンジェリスト」とは、上記の5つの条件を満たすのと同時に、周りの人たちに、御社の新製品の良い情報を広げてくる人です。知らない間に同僚や家族・知人を巻き込んでくれるので、プロブレムインタビュー直後か、ソリューションインタビュー時などにそのサインが読み取れるはずです。
インタビューのコンテクスト(文脈)について
コンテクスト(context)とは、英語で「背景」「状況」「場面」「文脈」を意味する言葉で、日本語では主に「文脈」という意味で使われます。
オープンクエスチョンとは、「休暇はどこへ行きたいですか?」「なぜそう思うのですか?」などのように、回答者の回答範囲を制限せず、自由に答えてもらう質問のことです。
シナリオ運用・修正について
インタビューを一通り終えるまで、シナリオは修正しないでください。何故ならば、途中でインタビュー内容や聞き方を変えると、同質のインタビューが実現不可能になるからです。
もしシナリオを修正する必要が出てきた場合は、一旦そこまでのインタビューを振り返り、そこまでに学習したことをまとめてから、調整をしてください。
インタビュー中に、明らかに「重要ではない」課題であるというサインを受けとったら、その課題をシナリオから削除して良いです。逆に、新しく「重要な」課題であるというサインを受けとったら、それをシナリオに追加してください。
インタビューの最終的な目標は、「絶対必要」な課題を1つに絞ることです。これが、のちのち製品の「独自の価値提案(UVP)」につながるからです。
既存の代替製品の重要さ
インタビュー協力者が現在使っている既存の代替製品をどのように使っているか、注意深く理解に努めましょう。インタビュー協力者は、のちのち、その代替製品と御社の新しいソリューションを、機能、価格などの点で必ず比較をします。もし既存の代替製品が無料の場合は、当然ですが、御社の新しいソリューションが、それ以上の価値を提供しなければスイッチしてくれません。
プロブレムインタビュー終了の条件
最低10人にインタビューして、以下のことが確かめられればプロブレムインタビューは終了して良いでしょう。なお、確かめられない場合は、さらに20人以上にインタビューを実施する必要があるかもしれません。
- ・ アーリーバンジェリストとなる(なりそうな)顧客が特定できた
- ・「課題の優先順位」又は「課題の世界感の探求」で、「絶対に必要」な課題(バーニングニーズ)が発見できた
- ・課題の解決方法が特定できた
ソリューションインタビュー
プロブレムインタビューの次は「ソリューションインタビュー」を行います。
ソリューションインタビューでは、サービスアイデアシートのソリューションコンセプトまたは、リーンキャンバスのソリューションとアーリーバンジェリスト及び収益の流れが、仮説通りかどうかを確かめます。
実施の時期は、プロブレムインタビュー終了後、なるべく早い方が良いです。プロブレムインタビュー実施の勢いを忘れてしまわないように、流れを妨げないようにするためです。
プロブレムインタビューと違い、単なる口頭でのインタビューではなく、「デモ」を使ってソリューションコンセプトがサービス又は製品として成立するか否かを確かめます。
「デモ」とは、後ほど詳しく解説しますが、サービスや製品の使用方法、特徴などを説明・実演し、顧客の購入を促進する「本物そっくりのモノ」のことです。
ソリューションインタビューの目的
ソリューションインタビューの主な目的は、想定顧客にソリューションコンセプトの「デモ」を見せて、顧客課題が解決できるかどうかを確かめることです。
顧客は、基本的に自身の課題について説明するのは得意ですが、ソリューションを思い浮かべるのは不得意です。
「デモ」という言葉は、実際のサービスの代わりになるもの、という意味で使っています。「完璧なサービス」「完璧な製品」を作るのには時間がかかりますし、間違ったサービスや製品を作ってしまったり、機能が色々とてんこ盛りになっていたりすれば、それこそ作るだけ時間がムダになってしまいます。
まずは、想定顧客に見せるのに「必要最低限」の「デモ」をソリューションインタビューの前に作っておきましょう。
「デモ」が整っていると、ソリューションインタビューがしっかりできるばかりか、ソリューションインタビュー終了後に作る「サービス1.0」あるいは「製品1.0」のベースになりますから大変重要なものになります。
「デモ」は、ソフトウェア製品であれば、製品のユーザーインターフェイス(UI)のモックアップや機能を解説した動画などが最適です。目に見えないサービスの場合は、サービスの概要や効果を示したスライドや一部をデモンストレーションしてみることなどが最適です。
物理的な製品であれば、製品のスケッチやクレイモデル、3Dプリンタで出力したものなど外観が分かるものが良いでしょう。
「デモ」に何を使うにしても、以下のガイドラインを忘れないでください。
「デモ」は、サービスや製品の成果や効果を実現可能でなければいけません。そして「デモ」は、想定顧客のとってできるだけ本物のサービスや製品に見えなければいけません。これは、想定顧客に、あたかも本物のサービスや製品を使っているところをイメージさせるためで、想定顧客に「あぁ、これはデモだな」と思わせるような状態は避けねばなりません。
想定顧客がソリューションインタビューを通して目の前で見ているものと、実際に購入してもらうサービスや製品との間に大きな際が生じてしまうことをできるだけ回避するためです。
「デモ」が本物に見えれば、その分だけ正確なソリューションインタビューができるということを覚えておいてください。
ソリューションインタビューで確かめること
ソリューションインタビューのシナリオ全体
シナリオ部分:「歓迎」(場の設定)【所要時間:2分間】
本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。
我々は、親御さんをターゲットにした写真と動画の共有サービスに取り組ん でいます。私も最近子どもが生まれまして、既存のサービスに不満を持つようになり、このサービスを思いつきました。
インタビューの流れとしては、まず、我々が直面している課題について説明 します。次に、それについて共感できるかどうかをお聞きします。そのあとに、アプリケーションのデモをお見せします。
先に申し上げておきたいのですが、まだ製品は完成していません。ですから、 何かを売りつけようという気持ちはまったくありませんのでご安心ください。このインタビューの目的は、我々の学習なのです。
よろしいでしょうか?
シナリオ部分:「顧客情報の収集」(顧客セグメントの検証)【所要時間:2分間】
課題に進む前に、あなた自身について教えてください。
●お子さんは何人いらっしゃいますか?
●お子さんはおいくつですか?
●写真をオンラインで共有していますか?
●動画をオンラインで共有していますか?
●共有の頻度はどの程度ですか?
●どなたと共有していますか?
シナリオ部分:「ストーリーの伝達」(課題の文脈の設定)【所要時間:2分間】
ありがとうございます。それでは、我々が取り組んでいる課題についてお話させてください。
子どもが生まれてから、以前よりも写真や動画を撮る機会が増えてきました。 祖父母や親戚からは、定期的に(毎週のように)送ってくれと言われます。しかし、こうした作業は時間がかかりますし、ときには苦痛を伴うこともありますので、定期的に共有するのは難しいのです。
ファイルを整理して、サイズを変更して、確実にアップロードされるのを見守らなければいけません。動画はもっと大変です。ウェブに適したフォーマットに変換(トランスコード) しなければいけません。
子どもがいると寝不足になりますし、以前のように自由な時間もありません。 貴重な時間は他のことに使いたいのです。
共感していただけるでしょうか?
共感してもらえなかった場合は、ソリューションインタビューを続けるのではなく、課題インタビューの台本に切り替えましょう。そして、見込み客がどのように課題を解決しているかを学習します。
シナリオ部分:「デモ」(ソリューションの検証)【所要時間:15分間】
それではこれからデモを使って、課題の解決方法を順番に説明します。
<以下、課題ごとに>
まず〇〇の課題についてのデモです。
デモが終わりました。何かご質問はありますか?忌憚のないコメントをください。
<ここまでを課題ごとに繰り返します>
これが我々が今考えているアプリケーションの全体です。これからどこを先に完成させるのか、 何をいつリリースするのかについて、優先順位をつけたいと考えていますので、いくつか質問をさせてください。
●どのデモに共感しましたか?
●どれがなくてもいいですか?
●こういう機能が欲しいというものはありますか?
シナリオ部分:「価格の検証」(収益の流れ)【所要時間:3分間】
それでは、価格についてお話しましょう。
サービスは定額制にしようと思っています。
容量制限なしで写真と動画の共有ができるとしたら、年に49ドル支払いますか?
備考:適正な価格を見つけることは、科学的に可能です。適正な価格とは、顧客が少し抵抗を見せながらも、受け入れる価格です。
顧客に「概算価格」を聞いてはいけません。こちらから価格モデルを伝えてください(アンカリングの有無を考慮)。そして、すぐに相手の反応を見ます。価格を受け入れてもらった場合は、ためらいながら受け入れたのか、すぐに受け入れたのかに注目します。
シナリオ部分:「まとめ」(質問)【所要時間:2分間】
今日はどうもありがとうございました。大変助かりました。
最初に述べたように、まだ製品は完成していませんが、まもなくローンチ予定です。製品の準備ができたら、使ってみていただけますか?
また、引き続きあなたのような方にインタビューしたいと思っています。どなたかお子さんのいる方をご紹介いただけますか?
備考:仮説の質問は終わりましたが、大切なお願いが2つ残っています。
まずは、サービスの準備ができたときに、テストに協力してもらえるようにお願いしましょう。可能であれば口約束ではなく、具体的な約束をしましょう。 次に、インタビューをさせてもらえそうな他の見込み客を紹介してもらいましょう。
結果の文書化:「テンプレート」【所要時間:5分間】
ソリューションインタビューの結果
日時:
連絡先
氏名:
メールアドレス:
顧客情報
子どもの人数:
年齡:
オンラインで写真を共有しているか:
オンラインで動画を共有しているか:
共有の頻度:
共有の相手:
ソリューション: 手軽でアップロード不要な共有
優先順位:
苦痛の程度:
補足情報:
ソリューション: iPhotoとフォルダの統合
優先順位:
苦痛の程度:
補足情報:
ソリューション: 自動動画変換
優先順位:
苦痛の程度:
補足情報:
価格
希望価格(月額):
備考:
紹介者:
備考:インタビューが終わったら、記憶が新しいうちに5分間かけて結果を文書化しておきましょう。
このようなテンプレートを用意しておけば、インタビュイーの反応を効率的に書き留めておくことができますので便利です。あらかじめ人数分作成しておきましょう。
すべてのインタビューが終わったら、それぞれの記述を比較して、最終結果を別のドキュメントにまとめ、さらに改善点をリーンキャンバスに反省させれば、インタビューに関わるすべての作業は終了です。
ミニ用語解説
リーンキャンバス:A4用紙1枚程度のサイズ内にサービスアイデアやビジネスモデルの主要要素9つを可視化したもの。サービスアイデアやビジネスモデルを検証・改善する時に用います。
アーリーバンジェリスト:熱心で情熱的で、自分(自社)の課題を解決したいと強く思っている人。サービス・製品が未完成であってもそれを承知で積極的に使おうとする人。「アーリーアダプター」や「エバンジェリストユーザ」と解説しているブログや動画があるが、これは間違いです。
「アーリーアダプター」とは、イノベーター理論における5つのグループの中の1つで、市場全体の13.5%を構成しており、流行に敏感で、自ら情報収集を行い判断する層のこと指しているので、そもそも「顧客開発モデル」「顧客インタビュー」とは別のカテゴリーの話。そして「エバンジェリストユーザ」とは、「リーンスタートアップ」関連の書籍に登場する誤訳である完全な誤訳です。何故なら、原書に記述されている正しい表記は「アーリーバンジェリスト」だからです。「ユーザ」という言葉を使っている時点で、すでに問題外です。何故なら、対象は、「ユーザ」ではなく「人」だからです。
この記事は現在、コンテンツを追加・修正しながらアップデイト中です。(最新アップデイト日:2024年10月3日)。