顧客開発モデル入門

売れるサービス創出ファシリテーターの夏本健司です。これから世界一わかりやすく「顧客開発モデル」の方法について解説をします。

あなたが今、新サービス開発や新事業開発に関わっていて、真剣に売れるサービスを成就させたいとお考えならば、ぜひ一言一句、読み飛ばさずに最後までお読みください。

この記事を読み終えるころには、きっと「顧客開発モデル」を自社にどのように広めようか真剣に考えたくなるはずです。

顧客開発モデルとは

「顧客開発モデル」と「製品開発モデル」

「顧客開発モデル(Customer Development Model)」とは、スタートアップ企業がゼロから製品やサービスを開発し、事業化するまでのロードマップをプロセスとして体系化したもので、米国の起業家・スティーブ・ブランク(Steve Blank)氏によって提唱された考え方です。

「顧客開発モデル」は、スタンフォード大学のカリキュラムにもなっており、毎年講義されています。ゆえに米国のスタートアップ界隈ではかなりスタートアップ成功の方法論となっています。

ですが「顧客開発モデル」は、スタートアップ企業だけのものではなく、一般企業が新サービス・新事業開発を行う時にも使える普遍的な考え方と言えます

なぜなら、弊社のお客様であるソニーやリクルート、NTTドコモといった一流企業でも新事業開発のベースとして活用しているからです。

「顧客開発モデル」を解説する際に、欠かせない大事な要素の1つに「製品開発モデル」という概念があります。「製品開発モデル」とは「製品コンセプト作り→製品開発→評価試験→出荷準備・発売開始」という製品、サービス開発における一般的な概念のことです。これは、製品、サービス開発の従事する人なら当たり前のように誰でも知っているものでしょう。

「顧客開発モデル」は、これに代替するものではなく、協調・連携して開発を進めることで事業の成功ができる、と定義されています。

顧客開発モデルと製品開発モデルは並列のプロセスなのである。顧客開発部隊は、社外で顧客を中心とした活動に携わり、製品開発部隊は社内で製品を中心とした活動に専念する
([出所] Steve Blank 著, 「The Four Steps to the Epiphany: Successful Strategies for Products that Win」, K & S Ranch刊)

4つのステップとその意図

   

「顧客開発モデル」のアウトラインは、4つのステップから成り立ちます。サービス開発・事業開発を始めるスタート地点すなわち01段階から事業化するまで、すなわち事業化が成功するまでのロードマップを大きく4つに分割しているのが特徴です。

4つのステップの「4つ」とは、顧客発見、顧客実証、顧客創造、事業構築の4つのパートのことです。

ステップと呼んでいるのは、この4つの段階が、それぞれ逆戻り不可避な「段階」であることを明確に示しています。

例えて言うと、山登りをする時に、一合目、二合目、三合目・・・と言うように、順番に登っていくようなものです。

通常は、一般常識的には、一合目の次に五合目を目指して、その後三合目に戻ってから頂上を目指す、ということはしないはずです。

しかし、サービス開発・事業開発を行う場合、けっこうこのような常識はずれのことをして失敗したり、事業化に時間がかかったりする場合が多いようです。

ですから、これらの過ちを犯さないように、厳しく戒める意味で、4つの段階に明確に分かれていると推測されます(<注>山登りの例えは筆者オリジナルのものであり「the four steps to the epiphany」には具体的に記されていません)。

このことは、それぞれのパートを構成する細かいプロセスの一番最後に、サービス開発・事業開発を正常に進めるには避けては通れない大きなマイルストーンが設置されていることからも明らかです。

まずは、第一段階である「顧客発見」のマイルストーン、つまりこの段階でのゴールは、

  • 顧客と顧客課題、その解決策の仮説検証が完了すること

です。

分かりやすい言葉で言い替えると、「サービスアイデアの初期仮説の検証が完全にフィックスするまでは、次の段階へ進んではいけません」と、百戦錬磨の猛者(もさ)に教えられているようなものです。

第二段階である「顧客実証」のマイルストーン、つまりこの段階でのゴールは、

  • 解決策である製品の買い手を見つけ、実際に販売を確定させること

です。

分かりやすい言葉で言い替えると、「サービスアイデアの初期仮説に基づき初期の製品を創り、最初に買ってくれそうなお客さまを見つけ、実際に売って見せなさい」と、百戦錬磨の猛者(もさ)に教えられているようなものです。

第三段階である「顧客創造」のマイルストーン、つまりこの段階でのゴールは、

  • お客さんの対応が追いつかないほど忙しくなる
  • 広告を出していないのに、問い合わせが殺到する
  • アクセスが多すぎてシステムがダウンする

などの異常事態と言えるほどの状態になることです。

分かりやすい言葉で言い替えると、「広告費をたいしてかけていないのに、口コミなどで知らないうち『満員御礼』になってしまう」ことです(<注>ここでいう「口コミ」とは、SEO、SNS、ニュースサイト、インフルエンサーなどのおかげ、という意味です)。

これを読んで、ビジネスに詳しい方なら「なぁんだ、そんなこと、当たり前のことじゃないか」と思われたかもしれませんが、その通り、実は商売の基本中の基本です。

実は、成功した起業家が知らず知らずにうちに実現していた、というケースもあるでしょう。

ですから、「ほとんどの業界、業種で応用できる」普遍的な概念と言えるのではないでしょうか。特筆すべき点は、この「当たり前」かもしれない、「普遍的」かもしれないことを、目に見えるかたちにしてくれた、という点です。(<注>「the four steps to the epiphany」には明確に「普遍的」とは記されていません。あくまで筆者の推測及び補足です)。

ステップ1 顧客発見(Customer Discovery)

「顧客開発モデル」:ステップ1顧客発見

最初のステップは、製品開発・事業開発のスタート時、つまり全くのゼロ地点から、製品と事業及び顧客と顧客の課題を確定させるまでの段階です。
まず製品と事業及び顧客と顧客の課題を「仮説」として文章にします。次に顧客(「アーリーヴァンジェリスト」と定義されている)に課題があるかを確かめます(このプロセスを「プロブレムインタビュー」という)。
課題があることを確かめられたら、次にその課題を製品を使うことで解決できるかを確かめます(このプロセスを「ソリューションインタビュー」という)。この2段階のプロセスを経て「仮説」の精度を上げていきます。
何度かインタビューを繰り返して、仮説を検証完了させることがこの段階の目的です。

ステップ2 顧客実証(Customer Validation)

「顧客開発モデル」:ステップ2顧客実証

このステップは、顧客発見のプロセスで検証完了した製品やサービスを購入してくれる初めての顧客を見つけるための営業プロセス・営業ロードマップを作成することで、実際に購入してもらう(あるいは正式に購入予約をしてもらう)までの過程を指します。

ステップ3 顧客創造(Customer Creation)

このステップは、顧客実証で得たアーリーヴァンジェリストを軸により多くの顧客を得るべく市場を創造していくプロセスです。
このステップが順当に進むと、最終的にはPMFに達します。逆に言うとPMFを達成しなければ、顧客創造のステップは終了しない、とも言えます。

ステップ4 事業構築(Company Building)

最後のステップは、PMFに達した製品やサービスを本格的な事業として成長させることで、売り上げを増大させていく過程を指します。
企業として、或いは事業部としての組織を正式に発足させ、管理体制を構築しつつ、成長するに値する柔軟な企業風土あるいは事業部風土を創っていくプロセスです。

「THE FOUR STEPS TO THE EPIPHANY」では“「顧客開発部隊」から「機能別組織」への変革(の時期)”と記されています。

「顧客開発モデル」は、スタートアップがリスクを最小限に抑えながら市場に適した製品やサービスを開発し、成功するための重要なガイドラインとなっています。また、顧客のフィードバックを重視し、柔軟に対応するアプローチが特徴です。

顧客開発モデルのメリット

ここまで一言一句読み飛ばさずに読み進めてきた方ならすでにお気づきのように、「顧客開発モデル」は、新サービス開発・新事業開発の実行における分かりやすい「道しるべ」としても機能します。

そのため、このプロセスに従って開発を進めると、サービス化・事業化に失敗するという最大のリスクを回避することができ、人材・物資(技術)・情報などの各リソースを最小限に抑えることができます。

この他にも「顧客開発モデル」を実行すると、次のようなメリットを確実に得ることができます。

1. 開発コストを極限まで抑えられる

サービス・プロダクトをリリースする前に、実際に顧客と対話することで必要性を把握し、売れるかどうかを判断することができます。そのため手戻りをなくすことができ、最小の速度で開発を進められることと、前述のように人材・物資(技術)・情報に関する調達コストを削減できるので、開発コスト全体を最小限に抑えることができるのです。

2. 販売前に売れるかどうかが分かる

理由は1と同じです。サービス・プロダクトをリリースする前に、実際に顧客と対話することで必要性を把握し、売れるかどうかを判断できるからです。

3. 今、どの時点なのか、次に何をすれば良いのか迷わない

「顧客開発モデル」は、4つのステップそれぞれが4つのフェーズに分かれていて、さらに各フェーズ内で10から19のプロセスに分割されているので、開発をステップ通り進めれば、今、どの時点なのか、次に何をすれば良いのを明確に特定することができます。

4. チームのモチベーションを究極に高められる

上記1から3が誰の目にも明確になるため、ゴールまでの差分とロードマップを常に見失わないで済み、結果的にチームメンバーのモチベーションが高まり、これを常に維持できます。

顧客開発モデルとデザインスプリントの関係

顧客開発モデルは、新商品開発及び新規事業開発の成功確率を高めるための最も有効な手段です。顧客との密接なコミュニケーションを中心に商品開発・事業開発を行っていくことで、失敗を最小限に抑え、顧客満足度の高い商品を早期に開発することができます。

顧客開発モデルを正しく実践することで、事業の成功を収める可能性が大幅に向上します。

以上のように、デザインスプリントの下敷きになる新商品・新事業開発における本質的な考え方として、事業開発において知っておくべき基礎知識の1つと言えます

「顧客開発モデル」と「デザインスプリント」

日本国内の「顧客開発モデル」に関する実情

この文章は、「顧客開発モデル」の発案者であり提唱者であるスティーブ・ブランク(Steve Blank)氏の著書「The Four Steps to the Epiphany: Successful Strategies for Products that Win」「The Startup Owner’s Manual: The Step-By-Step Guide for Building a Great Company (English Edition)」と彼の発信するブログ(https://steveblank.com/)やニュース記事などを頼りにして、できるだけ忠実な意図と内容を公開するために、膨大なメモと時間を費やして書き下ろしました。

なぜそこまでするのかと言うと、他社のブログや記事、AIによる出力情報は、はっきり言って間違っており、伝えるべき情報や言わんとする意図がズレていたり、明らかに解釈が間違っているからです。日本国内で刊行されている翻訳本ですら、誤解を招く表記が目立ちます。

スティーブ・ブランクと言っても、ほとんどの人は「はて?誰ですか?」というほどに、知名度は低いし、軽視されているのが現状でしょう。

それは、日本国内では、間違った情報が伝播しているからなのではないか?と勘ぐってしまうほどです。

スティーブ・ブランク氏は、米国ではとても著名な人で、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、コロンビア大学MBAコース、アメリカ国立科学財団(National Science Foundation)で講座を持つ先生(鬼軍曹という噂もある)でもあり、大人気講座となっているようです。ゆえに米国のスタートアップ界隈ではかなり名の知れた人だからです。

この文章が広まることで、スティーブ・ブランク氏の存在とその業績が正しく認知されれば、と思ってやみません。

ゆえに、この文章は常に書き足し/補正を行っています。一度読まれた方も、定期的に確認しに来てくださると、正しい最新情報をアップデイトしていただけます。
(最新更新日;2024.9.18/version 2.1 )

執筆者

SPRINTマスター夏本 健司

SPRINTマスター

夏本 健司

スプリントジャパン株式会社 代表取締役。東京藝術大学美術学部卒業後、テレビ朝日グループ、電通グループを経て2002年に独立。

20年間UIデザイナー業務を行ったのち、2016年よりデザインスプリントのテストマーケティングとメソッドのローカライズ化を始める。

主な実績
1998年:保険業界の新規ビジネスにて5億円の出資を成功させる
2000年:建築業界の新規ビジネスにてゼロから月商4000万円の事業へ
2002年:金融業界の新規ビジネスにて会員数を2万人から20万人へ成長させる
2004年:教育事業の立ち上げにて52のカリキュラム構築を担当
2005年:健康分野の新規ビジネスにて3ヶ月で損益分岐を達成
2016年:デザインスプリントをサービス化を開始

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