
「ミッションモデルキャンバス」という社会課題解決法
事業創造イノベーター/AIソロプレナーの夏本健司です。社会課題の解決をミッションにしている組織やリーダーに、新たなフレームワークを提唱します。
スタートアップのフレームワークとして有名なものに「スタートアップフィットジャーニー」があります。
これは、個人や企業がゼロから事業を立ち上げるロードマップとして、まずは「Customer」つまり、顧客を出発点として、

の4つのマイルストーンを経て、事業化へ至る道筋を具体的にしたものです。
「Product/Market Fit(「PMF」と略されることが多い)」を1つのゴールとして捉える考え方です。
私は、このフレームワークを社会課題の解決に応用できないかと、ずっと思索を続けてきましたが、最近、やっと整理できつつあるので、記事にしました。
社会課題解決版スタートアップフィットジャーニー
まず最初に、「Customer」に代わるものとして、「Stakeholder」と「Social System」の2つの要素を定義します。
営利事業を考える時、ソリューションとして「プロダクト」を定義しますが、その元となる受益者が「Customer(顧客)」です。
同じように、社会課題解決の受益者は、ミクロな視点では「Stakeholder」で、マクロな視点では、「Social System」と言えます。
営利事業とは違い、社会課題は複雑性をはらんでいるので、出発点は1つではなく、ミクロな視点とマクロな視点の最低2つは必要だという考え方に基づいています。
こう考えると「スタートアップフィットジャーニー」の1つ目のマイルストーンである「 Customer/Problem Fit」は、2つに分離する必要があり、「Stakeholder」の場合は「Stakeholder/Problem Fit」へ、「Social System」の場合は「Social System/Problem Fit」へとそれぞれ変更する必要があります。
2つ目のマイルストーン「Problem/Solution Fit」は、「Stakeholder」と「Problem」が「Fit」し、かつ「Social System」と「Problem」が「Fit」した後なので、次は「Problem」と「Solution」を「Fit」させるべきなので変更なしです。
3つ目のマイルストーン「Solution/Product Fit 」も、同じ理由で変更なしです。
しかし4つ目のマイルストーン「Product/Market Fit」は、「Product」を「Market」に 「Fit(適合)」させるという意味なので、社会課題解決の場合は、「Market」を「Society」に変更します。
これで、「社会課題解決版」「スタートアップフィットジャーニー」が完成します。

社会課題解決版リーンキャンバス(ミッションモデルキャンバス)10の要素
次に、具体的にどのように進めるかですが「スタートアップフィットジャーニー」の初期段階で使う「リーンキャンバス」を一部改変して「社会課題解決版」を定義します。
一般的に「リーンキャンバス」は、
- 顧客セグメント (Customer Segments):ターゲットとする顧客層を定義
- 顧客課題 (Customer Problem):顧客が抱える課題を明確
- 独自の価値提案 (Unique Value Proposition):競合他社との差別化となる、顧客に提供する価値を定義
- 解決策 (Solution):顧客課題を解決する具体的な方法を定義
- チャネル (Channels):顧客に価値を届けるための経路を定義
- 収益の流れ (Revenue Streams):収益を得る方法を定義
- 主コスト構造 (Cost Structure):事業を運営するために必要なコストを定義
- 主要指標 (Key Metrics):事業の進捗状況を測るための指標を定義
- 圧倒的な優位性 (Unfair Advantage):競合他社に真似できない、自社だけの強みを定義
の9つの要素で最小限の事業モデルを定義します。「リーンキャンバス」とは、スタートアップがビジネスモデル上の仮説を一枚の紙に一覧して整理/検証するためのツールです。
これを「社会課題解決版」として応用するには、何をどう変更すれば良いでしょうか。
ステークホルダー(Stakeholder)
従来の「顧客セグメント」に相当。【誰の問題を解決するのか】を明確にします。受益者を中心に、寄付者・協力者・行政など関連するステークホルダーの属性も書き込みます。
社会課題(Social Problem)
解決しようとする課題の記述です。ステークホルダーが感じている切実なニーズは何か。それは一時的な症状なのか根本原因なのか、関連する背景要因も含めて整理します(必要に応じてシステムマップ等も活用)。
ソリューション(Solution)
提供する解決策の概要です。製品やサービスだけでなく、政策提言やコミュニティモデルなど社会課題に適したソリューションも選択肢に含めます。各課題に対する具体的な施策を箇条書きにします。
独自の価値提案(Unique Value Proposition)
あなたの提供する価値の中核は何かを定義します。他にはない差別化ポイントや、社会にもたらす意義をシンプルなメッセージで表現します。
チャネル(Channels)
ソリューションをターゲットに届ける経路です。受益者への周知・提供方法だけでなく、支援者からの支持を得る方法も検討します(例:SNSやイベントで賛同者を集める、行政機関と連携する等)。
主要指標(Key Metrics)
成功を計測するための重要な指標を設定します。サービス利用者数や成長率などビジネス的KPIに加え、社会的インパクトを示す指標(例:就職支援で何人が職に就いたか、など)も組み込みます。
持続的な収益の流れ(Financial Sustainability)
ビジネスモデル上の「収益ストリーム」に該当します。プロジェクト継続に必要な資金をどのように確保・創出するかを記載します。例えば寄付金、助成金、サービスの有料提供、会費など複数の財源を検討し、財政面の持続可能性をデザインします(必要に応じて価格設定の仮説も含めます)。※金銭的リターンだけでなく、行動変容や支援者増加など非金銭的な成果もここに含め、組織のミッション達成にどう寄与するかを考えます。
社会的影響(Social Impact)
最終的にどんな社会変化を起こすかを明文化する項目です。活動を通じて社会に生まれる良い変化(例:ホームレス人口の○%削減、地域コミュニティの治安向上など)、すなわちミッションの達成度合いを示します。
ビジョン
解決しようとする社会課題が克服された未来像を簡潔に描きます。「誰が」「どうなっているのか」を具体的なシナリオで示し、プロジェクトの目的地をチーム内外で共有します。ビジョンはモチベーションの源泉であり、意思決定の指針にもなります。
圧倒的な優位性(Unfair Advantage)
他者が容易に真似できない強みを確認します。技術的優位性だけでなく、熱心な支援者ネットワークや信頼関係、特定領域での専門知識など、プロジェクト成功を後押しするユニークな武器を書き出します。
社会課題解決プロジェクト向けに、上記の要素を定義し言語化することで、プロジェクトの骨子をリ・デザインすることができ、関係者間で意志の齟齬なく情報を共有することができます。
米国の起業家・Steve Blank氏らは、私と似た考えを示し、ミッションドリブンな組織を目指すため「ミッションモデルキャンバス」を定義し、提唱しています。
ですので、ここまで書いてきた「社会課題解決版」の「リーンキャンバス」を呼びやすくするために今後は「ミッションモデルキャンバス」として呼称することにします。
もしもあなたのリードするプロジェクトが今、何かの問題や課題を抱えているなら、この記事を参考に、主要な関係者を集めて「ミッションモデルキャンバス」を作って考え方や方向性を具体的な言葉で共有してみてはいかがでしょうか。